最近、小野不由美さんの『屍鬼』という小説を読んでいます。文庫では全5巻の長編で、今は4巻を読み始めたところです。
ある程度集中して読書ができるようになってきたかなと感じています。感覚として、20代の頃の集中力くらいかなと思います。学校を休み、昼から本を読み、読み終わる頃には夕方。当時はそんな贅沢な過ごし方をしていました。
自分の読書体験についてお話しようと思います。
昔から本を読むのが好きだったように思います。保育園での絵本の読み聞かせの時間は好きでした。絵本以外に歌の本が好きで、そこに描かれている音符に様々な色を感じ、自分の周りを飛び回る体験が好きでした。
小学校では気に入った本を何度も読むタイプでした。『晴れときどきブタ』や『こまったさん』シリーズ、星座の物語やオペラの絵本なんかが好きでした。図書館で何度も借りた覚えがあります。家ではレシピ本を眺め、写真から味や食感を楽しむなんてこともしていました。百科事典の写真を眺めるのも好きでした。『シートン動物記』にハマり、オオカミ王ロボの話を覚えるまで読んでいたこともあります。小学生用の国語辞典を読むのが好きだったりもしました。まぁ、勉強ができるほうではなかったのと、学校の図書室のアクセスが悪すぎて、それ以上読書が広がることはなかったように思います。
中学も高校も部活中心の生活だったので、読書も人並みくらいだったんじゃないでしょうか。やはり変わらず気に入った本を、シーンやセリフ、展開を覚えるくらいまで何度も繰り返して読んでいました。読んだ本の冊数は多くないですが、大体物語を覚えているくらいには読んでいました。
高校の頃だったでしょうか。自分の読書体験がとても不思議なことに気づきました。本を読んでいると物語への没入感がとてつもないのです。それは物語に入り込み、登場人物の一人になる。。。レベルではなく、自分が物語になり、ストーリーが流れていくのを感じるというものです。映画を見ている感じではなく、「自分」という存在自体がすべて溶けて消えてしまうような感じです。私は物語になり、一人ひとりの登場人物になり、怪異になり、超能力者になり、騎士になり、動物になりました。知らないお城で起こるパーティーに出席し、悪をやっつけ、狩りをし、殺しました。すべての体験が鮮やかで、登場人物全員の心情が手に取るように分かるのです。だって自分になっているから。忘我の中で時間が過ぎ、物語が終わると現実の世界に戻ってきます。しばらくぼんやりとして、やっと周りを確認して、何とか起動する。没入感という言葉では足りないくらいの体験でした。
この不思議な体験はゲームや漫画、アニメなどでは起きないのです。それらはフィクションとして、自分とは切り離して捉えることができるのですが、小説ではフィクションとして捉えることが難しかったです。物語と現実の境がなくなり、何が物語で何が現実なのか、混ざり合って分からなくなるのです。普段、現実を曖昧でふんわりしたものとしかとらえてないのに、読書の時は輪郭や色がはっきりとして、本当にクリアに見えるのです。やー、マジでくっきりパッキリです。色、光、匂い、感触、味、すべてが生々しく、現実に感じてしまうのです。
お陰でホラー小説なんかがとても苦手だなと感じています。作中の怪異をリアルに感じてしまいます。『リング』を読んだ時も、自分が呪われたビデオを見たように感じてしまい、一週間後に死んでしまうと感じてしまったり。幽霊が出てくる小説では、その怪異の冷たさ、視線を感じてしまい、夜が怖くてたまらなかったり。
恋愛小説はあまり読んだ覚えがないですが、『ノルウェイの森』では主人公と同じように笑い、泣きました。ファンタジーを読むと自らに魔法の力があるように感じたり、ノワールものを読むと冷徹な殺人鬼としてふるまったように感じます。
感受性が豊かだといえばその通りなのですが、その言葉の範疇を超えている感じもします。あまり人と比べないので分からないのですがね。
この溶けてしまう読書は、自分で創作をして物語を書いている時は全然働きません。物語を書いている時は、自分の世界に対する捉え方が出ているみたいで、ぼんやりとして曖昧な輪郭でしか見えません。せっかく創作が趣味なのだから、こういう時に役立つと嬉しいのに! なので自分は読者に向いているのだなと、いつも感じています。新しい物語に出会うことで、新しい体験ができるような気がします。
そうそう。物語から現実に帰ってくる時、しばしば作者のあとがきが役に立っていると感じることがあります。あとがきは物語と現実をつなぐ中間地点みたいなもので、「そろそろ現実に戻りますよ」の合図になっているように思います。作者の為人が垣間見えるあとがきは、映画のエンドロールみたいな役割をしているなと感じます。あとがき、とても好きなんですよ。解説とかも好きです。どの本にもつけばいいのに。
みなさんの読書はどんな読書ですか?
自分が溶けてなくなってしまう体験をしたことはありますか?
機会があれば、是非うかがってみたいです。